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29LT Ada
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29LT Ada

ファミリー名:29LT Ada
種類:市販書体
ファンダリー:29Letters
リリース年:2023
共同制作者:Pascal Zoghbi(アラビア文字)、Wissam Shawkat(アラビア文字書道監修)
購入リンク:29Letters Ada SharpAda FlatAda Round
Fontstand Ada SharpAda FlatAda Round

29LT Adaは29Lettersというアラビア文字専門の書体ファンダリからリリースされたアラビア・欧文書体で、パスカル・ゾグビ氏と私の共作です。アラビア文字はゾグビ氏がウィッサム・ショウカット氏の監修でデザインしました。私の担当した部分はアラビア文字のOpenTypeコーディングと、欧文のデザインです。

英語が読める方は、29LTのブログ記事を読まれることを強くお勧めします。

ルカー体はアラビア文字の書風の中でも最も日常的で、学校でまず習うものです。しかし、ベースラインが傾いていることからデジタル環境で再現するのが容易ではないことから(複数の環境での動作保証は尚更)、これまでルカー体のデジタル書体はほとんどありませんでした。

ゾグビ氏は長年のアラビア書体の経験の中でクーフィー体やナスフ体など活字系のデザインを多く手掛けてきましたが、今回初めてルカー体に挑戦することにしたそうです。ルカー体の書道方面のアドバイスは、書家およびデザイナーとして有名なウィッサム・ショウカット氏の手を借りることになりました。書家およびデザイナーとして有名なウィッサム・ショウカット氏が書道方面の監修をしています。この二人体制で(たまに私も横槍)、ルカー体の伝統的な構造に忠実でありながら、シャープな細部が仕込まれた現代的なルカー書体が生まれました。29LT Adaは3種類のスタイルあり、それぞれに6ウエイトが用意されています。

ルカー体のデジタル書体は作るのが簡単になったとはいえ、そこそこ高度なOpenTypeエンジニアリング作業が必要になります。そこで以前にKlaketを作った経験を買われて、私がOpenTypeのエンジニアとなりました。このあたりはKlaketの内容とさほど変わりませんが、前回の経験を活かして発展させた部分や、Glyphs 3の新機能を使った新たな微調整が施されています。例えば発音記号の位置付は、隣接するグリフの形状により動かす必要がありますが、Klaketでは実装を限定的にして大部分は諦めていました。こういった部分をより知りたい方は、前述の29LTブログを頑張って読んでみてください。

私の仕事のもう一つは欧文のデザインです。ルカー体に合う欧文書体のデザインは過去に経験がありましたが(Klaket)、今回のデザインはもっと本文向けで、より正統派なものが求められました。さて、ルカー体のデザインをどうやって自然な欧文書体に落とし込めばいいでしょうか?

まずはルカー体の特徴を観察するところから始め、ルカー体に合わせる欧文として、まず横画と縦画を傾けることにしました。左に倒すのは珍しいので、あくまでやりすぎない程度です。これらは数多くの実験を重ねた結果、欧文とルカー体それぞれに自然ながら同じデザインに見えるような現在のデザインに落ち着きました。

次に細かな表情の擦り合わせです。ルカー体はアラビア書道の中でもベーシックで単純なのが特徴ですので、似たような評価を受け、かつ見た目も近い書風であるヒューマニスト体やファウンデーショナル体を基にしたいと思っていました(他にはアドリアン・フルティガー氏のOndineなど)。最初のデザインは始筆と終筆のないサンセリフ的なデザインでしたがやや物足りず、ディテールを足し引きする中で、ルカー体と同じように始筆はシンプルに、終筆は払い抜くような処理でまとめました。

アラビア文字は横画が太い傾向にあるため、線が太くなるほどボディの高低差が大きくなるのが理にかなっています。通常の活字的なデザインのアラビア文字書体では欧文と同じようにボディの上下端を固定していることが多いですが、Adaではペンの太さに任せて自然に広がるようにしています。これに併せて、本来は変動しないキャップハイトなども増加するようにし、細いウエイトほどハイト設定がコンパクトで、太いほど大きめになるようにしています。

OpenType機能の面では控えめですが、異体字の小文字gと、アラビア文字でよくあるループ字画の塗りつぶしを再現したスタイルセットが搭載されています。後者は欧文書体ではイレギュラーではありますが、雰囲気重視の時には使えるのではないでしょうか。